オレはコーヒーを淹れる為に台所へ行った。
そしてコーヒーカップに手を伸ばした瞬間、後ろから抱き竦められた。
オレは突然の事に、息が止まるかと思った。
鼻をくすぐるのは平次の匂い。
ふわっと平次の前髪が頬に触れた。
 
「な…何すんだよ…離せ」
「イヤや」
「お前、自分が何してんのか分かってる?」
「黒羽を抱きしめとるだけやんか」
「だ…だから…」
「オレの気持ち…気ぃ付いとるやろ?」
 
言われてオレは振り返った。
思わず至近距離で目が合ってしまって、オレは恥ずかしさに目を泳がせた。
 
春。
都内でもそこそこ有名な大学に通うようになったオレ。
そこで平次と初めて会った。
西の名探偵、服部平次。
名前くらいは知っていた。
だけど、実際に顔を合わせたのは初めてで。
興味を持って話しかけてみたら、気さくなヤツですぐに打ち解けた。
それからどんどん惹かれていって―――…
 
オレは平次の家にしょっちゅう押し掛けてた。
朝早くても、夜遅くても、平次は全く文句を言わない。
いや、最初は文句を言っていた。
来る前には必ず連絡入れろと、家に行く度に言われていた。
 
だけど、いつしかそれも言われなくなっていた。
それどころか、不意の訪れでも屈託のない笑みを浮かべて、オレを招き入れてくれるようになった。
 
平次も、オレを好きになってくれたかな?って思うようになって嬉しくて。
だけど全然手を出す素振りがなくて、オレの思い違いだったかな?て最近落ち込んでたんだけど。
 
平次もオレの事…?
平次はオレを抱きしめる腕に力を込めた。
オレは一層胸が高鳴った。
 
「もう…我慢出来へん。黒羽が、好きなんや」
「平次…」
 
平次の体温が心地良い。
オレは身体を預け、静かに目蓋を閉じた。
次に感じるのは平次の唇の感触だと思った。が、それは叶わなかった。
聞こえてきたのは平次のうめき声だった。
 
「てめーら、ヒトん家でイチャつくんじゃねーッ!!」
「く…工藤!これはアカンやろ〜辞書の角はマジ痛いで〜!!」
 
どうやら新一が、平次に分厚い辞書の角で頭を殴ったらしかった。
本当に痛かったらしく、平次は涙目になっている。
 
「黒羽!!」
「な…なんだよ?」
 
新一が物凄い形相でオレを睨んでいた。
 
「お前またオレがいない間に勝手に鍵開けて入っただろ?ったく、これだから…」
「い〜じゃん。新一鍵渡してくんないんだから、勝手に開けても文句言われる筋合い無いね」
「大体な、お前服部に会いにオレん家来てたんだろ?」
「そうだよ」
 
オレはあっけらかんと答える。
 
「だったら、二人で住めるとこ探して部屋借りろ!!ここでHすんのだけは絶対ごめんだからな!!」
「え〜新ちゃんのケチ!!これだけ家広いんだからHしても声聞こえないよ」
「そういう問題じゃねー!おい服部、お前も何か言え!!」
「ええやん別に。工藤が居らん時にするから、心配せんでもええで」
「そ!心配しなくってもいいって」
「家主差し置いてお前らが言うな―――ッ!!!」
 
(絶対こいつら追い出してやる!!)
 
新一の思いとは裏腹に、快斗までもが工藤邸に住み着くのは、一ヶ月も先の話ではなかった





平次にぎゅってされたら死ぬ!!
という妄想から。