これって男なら皆やってる事だろう?
それをたまたま、タイミング悪く見られただけだ。
見られたからってどうって事はない。
ちょっとバツの悪そうな顔をして見せればいいだけのこと。
そうしたら向こうも悪い、邪魔したって見なかったことにしてくれるはずだから。
 
なのに。
何でお前はオレの事じーっと見てるんだ?
オレが何してるかなんて見りゃ分かるだろ?同じ男なんだから。
なのになんて顔してオレの事見てるんだよ!!
恥ずかしいだろ!?
さっさとあっち行けよ!
オレ…動けねぇだろ?
 
 
夕方。
ゼミが終わって、服部がオレの家で飲みたいと言うので、コンビニでおつまみやビールを一杯買って、近くでビデオも借りて帰った。
初めて訪れた服部は整頓された部屋を見て、男のくせに綺麗好きやな、なんて笑ってた。
オレ達は今日の講義の事や小説、映画の話もして盛り上がった。
 
そこまでは良かった。
面白がって借りてきたビデオを見たのがいけなかったんだ。
服部が先輩のおススメだから、と言って借りたアダルトビデオ。
そういう雑誌なんかは見たことあったけど、ビデオではあんまり見ようとは思わなくて。
だから、実はまともに見たのはこれが初めてだったりした。
正直言って、かなり興奮してしまったんだ。
服部は「凄いな〜」なんて余裕で見てたけど、オレは服部に気付かれずに興奮を抑えるのに必死だった。
 
ビデオを見た後、服部はすぐにシャワーを浴びに行った。
多分、アイツも興奮しちゃったんだろうな。
オレも興奮を抑えられなくて。
ほんとは服部が上がってから浴室でしたかったんだけど、猛ってしまった雄を抑えるのは容易ではなくて、
待てずにベッドに転がって欲望を吐き出してしまった。
最近運動もしてなくて、少し溜まっていたかもしれない。
それだけでは足りずに、オレは目を閉じて再び自身の熱に手をやった。
一度達した熱は敏感になっており、少し触れただけでもとても気持ち良くて、指を上下させると何も考えられなくなった。
だから気付かなかったんだ。服部が戻ってきたのを。
 
「黒羽…」
「は…服部…!!」
 
オレは声を掛けられ、初めて服部に見られていたことを知った。
みるみる顔が赤くなる。
一番見られたくなかった姿を見られてしまったのだから当然だ。
オレは慌てて布団を引っつかんで勢いよく包まった。
恥ずかしくて服部の顔がまともに見れない。
布団に包まったまま、中々顔を出そうとしないオレに痺れを切らしたのか、服部がベッドに近づいてきた。
 
放っておいてくれよ〜〜!!
 
服部はそんなオレに構わず布団を捲り上げた。
オレは恥ずかしくてうずくまったまま、顔も上げれなかった。
服部はオレの顔を覗き込んだ。
 
「なぁ…さっきのビデオ、そないに興奮してしもたんか?」
 
服部が冷静にオレに問いかけた。
お前は違うのかよ!?と思ったが、オレは情けない事にバカ正直に答えていた。
 
「だって…アダルトって見るのって初めてだったから、免疫無くて…服部は?興奮しなかった?」
 
オレは恐る恐る、窺うように服部を見上げた。
服部はオレが貸したTシャツと短パンを着ていた。
自分のモノなのに、着る人間が変わるだけで随分印象が変わる。
オレが着ると子供っぽさが前面に出てしまうのに、服部が着るとカッコ良く見える。
シャワーを浴びて髪の毛が濡れているからか、普段と違って少し色っぽく見えてしまった。
頬も少し紅潮しているようだった。
火照ったのかな、なんて思いながら。
服部はオレの視線など気にした風もなく、オレを観察していた。
そして徐に口を開いた。
 
「ちゃんと抜けたんか?」
「へ?」
 
一瞬何を言われたのか分からず、オレは間抜けな声を出してしまった。
服部はゆっくりとベッドに腰を下ろし、オレに覆いかぶさってきた。
気のせいか、服部の目がマジな気がする。
思いもしなかった服部の行動に固まってしまって、オレは身動きが取れなかった。
 
この体勢、ちょっとヤバくないか?
 
「ちょ…ッ平次!?」
「一応興奮するにはしたけどな…今のジブンの方がめっちゃ興奮すんで…」
「な…何言って…」
 
オレは顔を沈めて来る服部を押さえるのに必死だった。
 
ちょっと待て!お前何しようとしてんだよ!!
濡れた髪がオレの頬をくすぐる。
服部はオレの首筋に舌を這わせた。
頬には冷たい感触。首筋には濡れた熱いような舌先の愛撫。
そのギャップにオレは思わず声を漏らしていた。
 
「あっ……」
「エエ声出すなぁジブン…もっと…啼かしたろか?」
「ば…!何言って……っ」
「今自分でしとったやろ?それを、オレがしたるんや。人にやられる方が気持ちええんやで?」
 
オレの制止の声も聞かず、服部はファスナーが下ろされ剥き出しになっているオレ自身にそっと手を触れた。
 
「っ……ん……」
 
まだ吐き出し足りないオレ自身は、服部の熱い手が触れた途端、ドクンと大きく脈打った。
オレの意思とは裏腹に、オレ自身は触れて欲しくてしょうがないらしかった。
先端に蜜が溢れ出し、それを見て服部は小さく笑った。
 
「な?他人に触れられる方が、自分でするより何倍も気持ちええやろ?」
「で…でも…」
 
オレは息が上がった声で必死に訴える。
服部はそんなオレを楽しそうに見遣り、扱き始めた。
 
「オレ達…男同士、…だろ?こんなの…おかしい…」
「黒羽は男とか女とか気にするんか?オレは気にせんで」
「気…気にしろよ…!!」
 
オレは半ば呆れながら声を荒げた。
だが、服部が発した言葉を耳にし、オレは脱力してしまった。
 
「オレは黒羽を見て欲情してしもたんや。アカンねん。一回火ぃついたらもう抑えられん。こんまま…抱いてもええか?」
「い…いい訳ないだろ!?何、人のオナニー見て欲情してんだよ!!この変態服部!!」
 
オレは服部に枕を投げつけた。
それは軽くかわされてしまい、オレは服部に両手を押さえられてしまった。
 
「そうかも分からんなぁ。人の掻いてる姿見て欲情してしもたんやから…。」
 
服部はにやりと笑った。
 
「は…はっと……ん…っ」
 
服部はオレの唇を強引に奪った。
逃げたくても逃げられない。
頭はベッドに抑えられている。
そして、遠慮無しに服部の舌が口内を割って入ってきた。
オレは思いっきり舌を吸い上げられ、絡め取られた。
服部はオレを執拗に追い立てる。
 
オレは不覚にもこのキスに感じてしまっていた。
そこだけじゃなく、全身が熱を持ってくる。
少しぼぅっとしながら薄く目を開いたら、服部がオレを意味ありげに見つめていた。
 
「変態やったら…何するか分からへんわなぁ?これからオレが何しても文句言わへんよな?」
「え…!?」
 
オレは驚いて身体を起こそうとしたが、服部に押さえられてそれは叶わなかった。
服部はオレの首筋に舌を這わせ、シャツの中に手を滑らせた。
そのままオレの胸を弄り始めた。
 
こ…こいつ…手慣れてる…!!
初めての愛撫に、オレは恥ずかしくも過剰に反応してしまう。
 
「えらく反応ええけど…ここも自分で弄るんか?」
「そ…そんな訳……」
「オレが最初か。ほんならじっくり可愛いがってやらんとな〜」
「ちょっ・・・ちょっと待っ…!!」
 
服部は胸の突起を指で弾き、もう一方を舌で転がした。
 
「あ……ん……」
 
思わず女みたいな声が出てしまった。
そんな自分がこの上なく恥ずかしかったが、オレの身体にはもっと恥ずかしくなる事を服部によってもたらされていた。
 
「な…どこ触ってんだよ!!」
「黒羽の秘密の場所や。ここは自分じゃ触った事ないやろ?入れたらどないな反応するんかな〜」
 
な…っこんなところに入れるだって!?
冗談だろう!!??
 
一気に緊張して身体が強張ってしまう。
そんなオレを諭す様に服部が耳元で囁いた。
 
「そない緊張しとったら入れた時キツイで?」
 
そう言いながら服部は濡らした指で蕾に触れた。
更に身体に緊張が走った。
が、服部がオレの熱を口に含んだ瞬間、緊張が和らいだ。
後ろに当てられた指の事など頭から吹き飛んでしまった。
遠慮なく服部の指が入り込み、オレの中を掻き回す。
 
「や…やだ…はっとり……んんっ……」
「嫌やないやろ?こない気持ちええ声出して…。もうちょい解そか…」
「や…あ……はぁ……あ……」
 
 
 


 
 
信じらんねぇ!!
結局、オレは服部に何回もイかされちまって、気が付いたらあまりの気持ち良さに気を失ってた。
一生の不覚。
大体女にモテモテでオレなんか抱かなくても良さそうなものなのに、わざわざ男なんか抱いて何考えてんだコイツは?
 
オレはだるそうに身体を起き上がらせた。
いつの間にか朝になっていた。
カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいる。
台所からいい匂いがしてきた。
どうやら服部がコーヒーを淹れているようだ。
オレは脱ぎ散らかった服をかき集め、手早く着込んだ。
裸足でベッドから降りると、台所へ近づいた。
オレに気付いた服部が軽く挨拶した。
 
「おはようさん。よう眠れたか?」
「…ケツが痛てぇ…」
 
仏頂面で答えたら、服部が顔をほころばせて苦笑した。
 
「手加減出来んで悪かったな…。あんな、黒羽…」
「服部?」
 
それまで笑っていた顔が急に真剣な顔つきになって、ドキリとした。
服部の顔がまともに見れなくて、オレは俯いてしまった。
 
「オレ…ほんまは黒羽の事ずっと好きやったんや。せやけど男同士やし…ずっと隠しとくつもりやった。あん時までは」
「服部…」
「黒羽が一人でしとるん見て…抑え利かんくなってしもてな、冗談混じりで抱いてしもたけど…オレ、本気なんや」
 
服部はオレをそっと抱きしめた。
何故かその温もりにぎゅっと胸が締め付けられた。
オレは一体…
 
「オレの事嫌いになったか?そやったらオレ、もう二度と黒羽には近づかんから、安心してええ…」
 
オレは服部をキツく抱きしめ返した。
何も考えていなかった。
身体が勝手に反応したんだ。
 
「バカ…!!責任取れよ!!」
「わ…判っとる!せやからもう近づかんて…」
 
服部は焦ってオレを引き離そうとした。
オレはネコの様に爪を立てて、服部にしがみついた。
 
「オレの身体、お前で一杯だ。忘れらんねーよ!どうしてくれんだよ!!」
「わ…悪かったて…」
「本気なんだろ?」
「黒羽…?」
「オレの事、本気で好きなら簡単に諦めんな!!」
「黒羽」
「オレ…オレ…」
 
感情が高ぶり、俺の目には涙が溢れていた。
服部はオレの頬に手を這わせ、涙を拭い取った。
 
「黒羽…。オレ、黒羽を好きなままでもええんか?」
「……」
「傍におっても、文句言わんか?」
「……」
「また…、抱いてまうかもしれんで?」
「……っ!」
「黒羽…」
 
言葉を紡ぐ前に、塞がれてしまった。
服部の唇に。
何度も何度も、優しく唇を啄ばまれた。
しばらくして、唇が離れた。
オレは顔を上げた。
熱い瞳でオレの顔を覗き込む服部の顔が映った。
 
「ええんか?」
「…いいよ」
「ほんまに?」
「しつこい!!」
 
オレは顔を真っ赤にして身体を背けた。
あんな事をした仲で、今更恥ずかしいもくそもないけど。
だって、いいよって言った時の服部の笑顔見たら、急に照れてしまって…ぶっきら棒に言い放っていた。
 
「美味しい朝食作ってくれたら、昨日無理やり襲ったこと許してやる」
「ほんまか?ほんなら、ほっぺた落ちるくらい美味い朝食作らなアカンな!」
 
服部は喜んでキッチンに戻った。
そんな服部を見て、もう許してやってんだけどな。なんて心の中で呟き、微笑んだ。