キスシーン




快斗は来週の脚本を貰い、青冷めてしまった。
こんなの見せたら絶対怒る。
だけど、言わない訳にもいかなくて、快斗は今日家に帰ってからずっと言い出す機会を狙っていた。
そして、平次に告げたのだった。
平次の反応は予想通りで…
 
「なんやて!?」
「だから〜今やってるドラマで、今度キスシーンがあるんだって」
「ダメやダメや!!断れ、そんなもん」
「む…無理だよそんなの〜。話題になるからって事務所も大乗り気だし…。
第一このキスシーンは後々重要になってくるんだって監督が…」
「相手役てアイツやろ?」
「真さん?そうだよ」
「アイツ好かんのや!絶対快斗狙うとる!!」
 
平次から出てきた言葉に快斗は焦ってしまった。
真さんはオレの事は弟みたいに思ってるはずだ。
だから、快斗も兄みたいに慕っていたのだが。
 
「そ、そんな事ないだろ?平次の思い過ごしだよ」
「いいや。アイツは絶対快斗狙うとる!オレが言うんやから間違いない!!」
「そ…その自信はどっから来るんだよ?」
「俺は快斗をずっと見とるから分かるんや。アイツ、絶対お前を好きやで!!昨日もお前が演技しとる間、
やらしい目でじぃ〜っと見とったで!」
「ま…真さんがそんな目する訳ないだろ?平次が変な先入観で見てるからだよ!」
「とにかく!ダメなもんはダメや!!」
 
平次は全く引き下がらない。
快斗は半ば呆れた様に溜息をついた。
 
 

「カ〜ット!!お疲れ様!二人とも良かったよ〜」
「ありがとうございます」
 
平次が猛反対したにも拘わらず、俺は真さんとのキスシーンに挑んでいた。
幸いにも一発OKが出たのでホッとした。
仕事とはいえ、恋人がいるのに他の人と何回もキスなんて出来ないから。
俺は一応真さんに挨拶してからスタジオを出ようとした。
 
「真さん、お疲れ様でした!」
「良かったな、一発OKで」
「はい。長引くと平次がうるさいだろうし、早く済んで良かったです」
「あのヒヨっこか?お前ももうちょい男を見る目があればな〜」
「平次はいい男ですよ!」
「仕事なのにキスシーンにも文句言うんだろ?自分に自信がないせいじゃねーか?」
「そ…そんな事は…」
 
俺が思わず言葉に詰まってしまって俯くと、真さんは俺の肩を抱き寄せた。
 
「なんなら芝居じゃなくても俺が恋人になってやってもいいんだぜ?」
「えッ!?」
 
俺は驚いて思わず身を引いてしまった。
 
「な〜んてな!真っ赤になって可愛いな、お前」
「ま…真さんからかわないでくださいよ〜」
「悪い悪い。そんじゃ、衣装着替えて来るからまた後でな」
「あ、はい」
 
俺はスタッフに声を掛けられ、先に真さんがスタジオを出て行った。
 
 
「心配で見に来てたのか?」
 
真がスタジオから出ると、仏頂面した快斗の恋人、服部平次に出くわした。
真と顔を合わせると、一層険しい表情になった。
 
「あんた快斗ん前じゃ、えらい猫被ってんな」
 
真は動じた風も見せずに飄々と答えた。
 
「堕とそうと思ってるヤツの前で本性見せないのなんて、当たり前だろ?君みたいな子供に快斗は相応しくないぜ」
「自分やったら相応しいみたいな言い方やな…」
 
平次は真に向き直った。
悔しいが自分が年下な事もあり、子供っぽさを引き合いに出されたら反論出来ない。
 
「快斗はな、アンタやない。俺が好きなんや!勘違いしてちょっかい出さんといてくれんか?」
「別に勘違いしてないさ。これから俺を好きになってもらうまでの事だからな。
言っとくが、俺が本気になって堕ちなかったヤツは今までいないんだぜ?」
 
大人の微笑を見せられ、平次は言葉に詰まってしまった。
反論しようと口を開きかけた時、のんびりとした快斗の声が降ってきた。
 
「平次!なんだ見に来てたの?心配性だな〜。真さん、次3時からだって」
「そっか。サンキュ〜快斗」
「平次、さっきメイクさんから差し入れ貰ったんだけど食べる?」
「あ、ああ」
「そんじゃ控え室行こ!真さん、それじゃ」
「あ、快斗」
「え?」
 
快斗が振り向いた瞬間、真は腰を抱き寄せ、極自然に唇を重ねていた。
あまりに自然な流れだったので、快斗も平次も何が起きたか瞬時には理解出来なかった。
やっと事の次第が飲み込めた時には、真は快斗から離れて歩き出していた。
そしてクルリと振り返った。
 
「さっきのじゃ足りなかったからな〜またお願いするな、快斗」
 
真はにっこりと微笑んでみせ、再び控え室へと歩き出した。
その場には硬直した二人が取り残された。
 
「お…俺の目の前でよくも…あの狸ジジイが!!」
「う…嘘だろ?」
「快斗!!お前ももうちっと警戒せえ!まんまとアイツに唇奪われてからに」
「し…知るかよ!!まさかこんなとこでするなんて思わないし…第一真さんって俺の事好きな訳?」
「俺が今まで散々言うとったやろ!?本気にしとらんかったんは自分やんけ!!」
「だって〜」
「とにかく!アイツん前じゃ、無防備でおるんはやめぇよ?また奪われるで?」
「え〜?ヤダよ!どうしよう平次…」
「アイツに目ぇつけられたんが運の尽きやな…」
「平次〜」
 
やっぱり仕事が悪い。
盛りのついた雄と恋人を演じて、相手が本気にならない訳が無い。
快斗の魅力は半端じゃなく、相手が勘違いしてしまうケースは今まで何度もあった。
だが、今回は一番性質が悪いかもしれない。
快斗に恋人がいるのに、しかも恋人の目の前で唇を奪う所業に出るとは。
平次は本気で仕事を辞めさそうとまで思ってしまうのだった…。








ハンサムの続編のような、そうでもないような…
原作でキスシーンネタがあったんでちょっと拝借しました。
真快が書いてみたかっただけだったりします。
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