耳掻き



 
「これ頼むわ」
 
風呂上り。
平次はTシャツと短パン姿で嬉しそうにそれを渡した。
ティッシュ一枚に耳掻き。
まさか…?

 
「何?これ?」
 
思わず呆然として聞き返してしまったオレはバカだろうか。
 
「何て、ティッシュと耳掻きやんか」
「いや…それは見れば分かるから。あの…まさか…」
 

その先の答えは出来れば聞きたくなかった。
 
「耳掃除して♪」

 
やっぱり!
何でこのオレが人様の耳掃除なんてしなきゃなんねーんだよ!!
てか生まれてこの方人の耳なんていじくった事なんてねーんだよ!!
オレは心底嫌そうに平次に向って叫んでいた。
 
「んな事ぐらい自分でやれ!」
「え〜やんか。オレ自分で出来ひんのや」
「は?」
「怖いやんか、耳にこんなん突っ込むの」
「え?お前今までどうしてたの?耳掃除しなきゃ痒いだろーが」
「今まではおかんがやってくれてたし」
「あ、そう…」

 
オレは溜息をついた。
こいつってばマザコンかよ…
 
「てかオレのが怖いだろっ!?人の耳なんて怖くていじれるかよっ!!」
「え〜から、して」

 
平次は無理やりオレに耳掻きを渡し、ゴロンとオレの膝に頭を預け横になった。
信じらんねー。
 
「…痛くても知らねーぞ?」
「愛があれば平気やでv」
「ふざけたこと抜かしてると奥まで突っ込むぞ」
「それは勘弁したって」

 
オレは諦めて丁寧に平次の耳掃除をしてやった。
時々力を入れすぎて平次の身体がピクッと動いたが、それ以外は大人しく頭を預けていた。
平次のそんな姿を見ていると、胸に不思議な感覚が湧き上がってくる。
何だろうこの気持ちは…

 
「オレな〜夢やってん」
「何が?」
「おかんとオヤジがな、いっつも縁側でこうやって耳掃除してたんや。」
「へえ〜(ここのオヤジも自分で出来なかったのかよ!遺伝か?このヤロー)」
「結構その姿て傍から見てると幸せ家族そのもので…憧れてたんよ」
「え?」
「オレもいつか好きな人にこうやってしてもらうんが夢やってん」
「平次…」
「オレは気持ち良かったけど…快斗は?嫌やなかった?」
 

オレは返答に困ってしまった。
無理やり押し付けられたのに、少し幸せを感じてしまったなんて、恥ずかしくて認めたくない。
こいつはどうしてこうストレートに感情をぶつけてくるんだろうか。
オレはポーカーフェイスは得意だが、感情を素直に人にぶつけるのが苦手だった。
 
「反対!」
「へ?」
「反対向け!右はしなくてもいいのか?」
「ああ」
 
平次は大人しく身体を反転させ、反対側の耳を上に向けた。
オレは再び耳を覗き込んだ。
 
「……から」
「何?」
「またやってやるよ、耳掃除」
「ほんまか?」
 

平次は嬉しかったのか、急に起き上がってオレの顔を覗き込んだ。

 
「バ…バカ!!耳掃除してる最中に急に起き上がるバカがどこにいんだよ!危ねーだろがッ気ぃつけろ!!」
「ス…スマンスマン」
 

平次はまたゴロンと横になった。
このままではちょっと癪だったので、意地悪をしたくなった。
ほんの出来心。
 
「ちょっと上向いて」
「ん?ええけど、何?」
 

オレは無理やり平次の顔を上に向かせ、唇を重ねた。
そっと触れるだけのキス。
平次は目を丸くしていた。
してやったり、だ。
 

「か…快…ッ」
「へっへーんだ!いただきぃ♪」
「ファ…ファーストキスはオレからしたろ思うてたのに!!何で自分からするねん、アホッ!!」
「平次が中途半端な告白するからだろ」
「オレのせいかい!」
「つーか付き合ってもいない人間にいきなり耳掃除させる人間っていねーだろ、普通」
「いや、せやからこの後ちゃんと言おう思うてたんやて!」
「どうだか。ほら、横向け横」
「…オレ、尻に敷かれとる?」
「あれ、今頃気付いた?」
 

オレはクスクス笑って平次の頬を両手で包み込んだ。
そして再び平次に口付けた。
甘い言葉と共に。

 
「好きだぜ、平次」


 
平次が耳まで真っ赤になっていたのは言うまでもなかった。






またおバカ二人を書いてしまった…

でも楽しいv
ちょと快平っぽい?(汗)