「寒〜〜い!!!誰だよ〜こんな夜中に初詣行こうなんて言ったヤツ!」
 
快斗は寒さに震えて平次を思わず睨んでしまった。
そんな快斗に平次はただ呆れるばかりである。
それもその筈。
 
「お前が言うたんやろ?二年参りがしたいて」
「……」
 
そう。
最初快斗を初詣に誘ったのは平次だった。
だが、快斗がどうせなら大晦日の夜に行き、二年参りをしたいと言い出したのだ。
 
大晦日。
人がごった返しているとはいえ、境内は風に晒され寒さも半端じゃない。
それでも行きたいと言ったのは快斗だった。
 
「そうだけど…こんな寒いなんて思わなかったし」
「ほんなら何かあったかいモンでも買って来よか?まだ時間あるし」
「え…」
「ちょお待っとき」
「へ…平次!」
 
平次は快斗の返事を待たずに列を離れて行ってしまった。
話す相手が居なくなり、快斗はふと周りを見渡した。
周囲はカップルばかりだ。
女の子は晴れ着を着て、そうでなくても目一杯お洒落して着飾っている。
カップル達はとても幸せそうに笑っていた。
ほんの数分離れているだけなのに、急に平次が恋しくなった。
すると、平次が飲み物を持って駆けてきた。
 
「ほら、ココア買うて来たったで」
「…ありがと」
 
平次は快斗に買ってきたばかりのココアを渡して微笑んだ。
快斗はココアを受け取り、カイロ代わりに手のひらに包んで温まった。
ふと平次を見ると、ポケットに手を突っ込んで快斗を見ていた。
 
「あれ?平次のは買ってないの?」
「買うて来たけど…まだ熱いしポケットに入れてんで」
「飲む頃には冷めちゃうよ?」
 
快斗は平次の顔を覗き込んだ。
そのあまりの無防備さに,、平次は思わず言葉を飲み込んでしまった。
この頃は、快斗のふとした仕草や表情を目にする度に、理性が効かなくなっている。
そろそろ…本気でまずいかもしれない。
平次は快斗の顔を見ないように参拝客を見る振りをした。
快斗はココアを一口啜り、平次に差し出した。


 
「俺の飲む?温まるよ?」
「いや、俺は甘いモンはあんま飲めへんし、気にせんと飲んでええよ」
「うん…」
 
快斗は平次が急にこっちを見てくれなくなったような気がして、不安になった。
さっきまで普通に微笑んでくれていたのに…。
急に手のひらのココアが冷たく感じた。
二年参りがしたいと言い出したのも、そうすれば平次と少しでも長く一緒に居られると思ったから。
それに、お願いしたい事もあった。
神様なんて信じちゃいないけど、やっぱり一度は神様の存在を信じたい時がある。
 
平次の気持ちが知りたい…。
 
快斗は意を決して、平次の腕を取って引っ張っていく。
 
「か…快斗!どこ行くんや?もうすぐ零時になんで!?」
「いいから!」
 
平次は訳が判らず、ただ快斗に引っ張られて裏の林に連れてこられた。
急に立ち止まったかと思うと、快斗は思いっきり平次に抱きついた。
平次はあまりの出来事に慌てふためいた。
 
「か…快斗!?」
「……」
「気分でも悪いんか?」
「違う!!」
「ほんなら…」
「平次は俺の事好きなんだよね?」
 
快斗は真剣な目つきで平次を見つめた。
そんな快斗に平次は動揺するばかりである。
 
「い…いきなり何言うて…」
「この前言っただろ?俺に好きだって!!それとも…」
 
一ヶ月前。
平次は快斗を好きだと言った。
だけど、好きだと告げたのは、友達としての好きだったのだろうか?
自分が良い様に解釈してしまっただけなのだろうか?
平次から好きだと告げられ、舞い上がって言葉の意味を深く理解出来なかったのかもしれない。
そう思うと急に自分が情けなくなった。
 
「そうだよな…俺、なんか勘違いしちゃったみたい……」
「快斗!」
「俺…平次に好きだって言われて、嬉しくて…ほんとに嬉しくて…」
 
平次は快斗の腕を強く掴んだ。
快斗は顔を見られまいと、反対側の腕で今にも泣き出しそうな顔を隠した。
反動で快斗は缶を落としてしまったが、そんな事に構っていられなかった。
 
「違うんや快斗!お…俺な…」
「何だよ」
「あん時酒入っとったし…実は…」
「覚えてないのか!?」
「お…覚えとるけど…」
 
平次は自分の愚かさ加減を呪いそうになった。
 
一ヶ月前。
快斗の家で、二人で酒を飲んだ。
二人で酒を飲むのは初めてで、少し浮かれていたかもしれない。
結構早いペースで進めてしまって。
酔いが回るのも早かった。
そして、自分の気持ちを抑えられなくなってしまって…
気が付いたら快斗に好きだと告げていた。
だが、酔いの回った頭ではそれが夢だったのか現実の事だったのか判らなくなった。
次の日、快斗の態度は今までと変わていなかった。
拒否されるのが怖かったから、確かめる事もせずに夢だと思うようにした。
それが間違いだったと、今やっと気付かされた。
平次は顔を隠している腕を掴んで拘束した。
快斗は少し赤くした目で平次を見遣った。
平次はそんな快斗を真っ直ぐに見据えた。
 
「俺は快斗が好きや」
「平次…」
「スマンな。快斗の気持ち聞くんが怖くて…酒も入っとったし夢や思う事にしたんや」
 
快斗は目を丸くした。
 
「快斗…俺の事好きか?」
「……」
「好き…なんやな?」
「まだ何も言ってねーだろ!!」
「ほな、言うて?」
 
 
快斗は顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
返事を聞かずとも答えは判るというものだ。
平次は腕時計に目を遣った。
そろそろ年を越す頃だろうと思ったのだ。
案の定、零時まであと十数秒だった。
 
「二年参りの他に、カップルがする事あるんやけど…知っとるか?」
 
快斗はきょとんとしながら顔を上げた。
境内では参拝客によってカウントダウンが始まっていた。
 
「知りたいか?」
「何?」
 
快斗はにわかにうきうきしながら返事した。
平次はにやりと笑うと、快斗の身体に腕を回した。
快斗がそれに気を取られている隙に、平次は唇を奪った。
ふいの出来事に驚いて、快斗は身動きも取れなかった。
少しして、遠くの方から歓声が上がった。
新年が明けたのだろう。
おめでとうという声が飛び交っている。
平次はそっと唇を離し、口を開いた。
 
「どや?二年越しのキスやでv」
「バ…バカじゃねえの。お前」
「大阪人にバカ言うなや」
「バカにバカって言って何が悪い!」
「あ…せや。お年玉やるわ」
「え?」
 
平次は徐にポケットに入れていた缶コーヒーを取り出し、プルタグを開けて一口含んだ。
一連の動作に気を取られていた快斗は、平次の思惑に全く気付かなかった。
気付いたのは平次の唇が快斗に触れてきた時。
少し冷たくなった唇の隙間を縫って、温かい液体が流れ込んできた。
少し苦いコーヒーをコクンと飲み込むと、平次の唇が離れた。
平次を見ると、ニヤニヤと笑っていた。
 
「…変態」
「ええやん。美味かったやろ?」
「苦いしぬるかった…」
「俺は甘かったで?」
 
途端に快斗の顔が真っ赤になった。
 
「お…お前、告白も満足に出来なかったくせして、何急に積極的になってんだよ…!!」
「男は皆こんなもんやろ?」
「ちげーよ!!お前だけだ!!」
 
快斗はスタスタと歩き出した。
平次は慌てて追いかける。
 
「お…怒ったんか?」
「これ以上こんな人気の無いとこいたら、また襲われそうだし」
「別に襲ったりはせんて」
「二年参り!」
「…ああ」
「お前、忘れてたな?」
「忘れてへんて」
 
苦笑しながら平次は快斗と並んで歩き出した。
 
平次ともっと仲良くなりたい。

 
そんな願い事をするつもりだったが、願掛けするまでもなく叶ってしまったので、
快斗は新たな願い事を考え、微笑むのであった。
 
 


甘甘?な年越し!!
どうでしょうか。
二年越しのキスって密かに憧れなんですよ(聞いてない)
一度は好きなキャラにやって貰いたかったんで満足満足v

ちぇっさんイラストありがとうですー♪
また描いてvv