「黒羽!黒羽…ッ!!」 オレは黒羽が海に飛び込んでから、一瞬固まってしまったが、青木たちが狂ったようにオレに突進してきたので慌てて正気に戻り、 飛び降りた瞬間気を失ったのか、黒羽はどんどん海中へと沈んで行った。 オレは懸命に潜っていき、必死の思いで黒羽の腕を掴んだ。 そしてぎゅっと抱きかかえると、そのまま海面へと上昇していった。 そこからは無我夢中であまり覚えていない。 とにかく早く岸に着かなくては、という思いだけで行動していた。 近くの浜に辿り着いたオレは肩で息をしていた。 かなり体力を消耗してしまったらしい。 その浜は周りが岩で覆われていて、体力が低下してしまった今の自分には簡単には登れそうにもなかった。 とりあえず、黒羽の救命が先だと、人工呼吸を始めた。ゲホゲホと咳き込み、海水を吐き出した。 それなのに黒羽はまだ意識を取り戻そうとしない。 オレは泣きそうになりながら、必死で黒羽の名を叫んでいた。 「黒羽!黒羽ッ!!目ぇ覚ましてくれ黒羽ッ!!」 「…んっ……」 「!!気ぃついたか、黒羽ッ!?」 オレは思わず黒羽の顔を覗き込んだ。 黒羽はまぶしそうに薄っすらと瞳を開けた。 「…あれ…へいじ…ここ…どこ?」 状況が一瞬把握出来なかったのだろう。 周りに目をやって呟いた。 「青木たちに襲われそうになって…崖から海へ飛び込んだんや。無事で良かったわ。 オレは土下座しそうな勢いで謝った。黒羽はびっくりしていた。 「そんな…謝るのはオレの方だよ!平次はちゃんと待ってろって言ったのに、オレがアイツらについて行ったんだから。 「黒羽が謝ることないで!ほんまにオレが…!!あいつら、オレをめっちゃ恨んどって…少しでも弱み握ろうとしててん。 オレはそっと黒羽の方を見た。黒羽は目に涙を一杯浮かべてこっちを見ていた。 緊張の糸が切れたのかもしれない。 「…怖かった…アイツら…平次の悔しがる顔が見たいって…オレをキズモノにしたらめっちゃ悔しがるっていって… 声を上げて泣き出した黒羽をオレはぎゅっと抱きしめた。 「こんなんして、ごめん。怖いか?」 一瞬の沈黙。黒羽の肩はまだ震えていた。オレは少し不安になって、黒羽の背中に回した腕を少し緩めた。 「イヤだ!!」 黒羽が思いっきり叫んだので、オレはスマン!といってパッと離れた。 (怖い思いしたばっかで、オレが怖がらせてどないすんねん!) オレは心の中で叱責した。 「あ、ごめん。違う。腕を緩めたのがイヤだ…って…」 「え?」 黒羽はまだ瞳に涙を浮かべていたが、少し恥ずかしそうに俯いた。 腕を緩めたのがイヤだって…つまりそれは… 「オレが抱いてもイヤじゃないんか?」 オレは少し緊張しながら聞いてみた。 快斗は俯いていたが、はっきりと言った。 「イヤ、じゃない。さっきは怖かったけど、平次だと平気。ていうか、平次が抱いてるとさっきのイヤな感触忘れられそう。 今度は懇願するようにオレを見つめてきた。 オレは言われるままに黒羽を抱き寄せ、思いっきり腕を絡ませた。 途中、黒羽が苦しそうにもがいたが、構わず抱きしめた。 「黒羽…怒らんと聞いてくれる?」 「何?」 言うか言うまいか悩んでいたが、この状況で言わずにいられる方がどうかしている。 オレは思い切って打ち明けた。 「オレな、黒羽のこと好きになってしもたみたいや」 「平次…」 「オレな、最初黒羽に声掛けた時、別にナンパしよ思うて声掛けたんとちゃうかってんけど、黒羽を見た瞬間、声掛けなって思わず思てしもて…。 告白していても最後にはやはり、黒羽の無事に意識が行ってしまう。オレは目頭が熱くなっていた。 それを隠すために、オレはまた黒羽を抱きしめる腕に力を込めた。 黙ってオレの告白を聞いていた黒羽だったが、オレが感極まって黙ってしまうと、ようやく口を開いた。 「オレからの返事はいらない訳?」 「…拒否られるんが分かるからええ。聞きとうないわ」 「なんで決めつけるの?」 「せやかて…オレら男やし…黒羽をこんな目に遭わせてしもたし…OKする訳ないやんか。オレは気持ち伝えられただけで、十分や」 「そんなの、オレが決めることでしょ?勝手に平次が決めないでよ!!」 「そうはいうたかて…って、え?」 オレはびっくりして思わず身体を引き剥がし、黒羽の顔を覗き込んだ。 そこには強くて澄んだ瞳を宿してオレを見つめる黒羽の姿があった。 「平次が間違えて声掛けてきたの知ってるよ。女に間違われるの慣れてるんだ。 「黒羽……」 愛しさがどんどん募って、体中から溢れ出そうになる。 オレはそっと黒羽に顔を近づけてみた。 黒羽はオレの行動の意味を察して、目を閉じた。 オレは黒羽の唇をそっと自分の唇と重ねていた。 今のオレ達にはこれが精一杯。 だけど、心は幸せな気持ちで一杯だった。 「結局、二位の商品ってなんだったんだ?貰ってきたんだろ?」 オレはバツが悪そうに頭を掻いた。 「あれな〜ズボンに入れとったんすっかり忘れてしもてて、ダメにしてしもた…」 「ズボンに入れてって…」 オレは徐に後ろのポケットに突っ込まれていたそれを取り出した。 「あーッ!!花火ッ!!!どうすんだよ!!水につけちゃったらもう使えねーじゃんッ!!」 「せやからダメにしてしもた、言うたやん!」 「もったいねーもったいねーッ!!」 「もーええやろ別にっ!たかが線香花火やないかッ!!」 「平次とやりたかったのにー!バカバカ!!」 「機嫌直してーな。もっとええヤツ買うたるから」 途端に黒羽の顔が輝きだした。さっきまでの駄々こねとは大違いだ。 「ほんとっ?どうせなら、打ち上げ花火がいいな〜うんっと派手なヤツ!!楽しみだな〜早く夜になんねーかな。 黒羽がさり気なく自分たちのことを恋人と言ってくれたので、オレはまた胸が熱くなる思いだった。 (ちょお値は張るけど…奮発したるかな…) オレは花火をする黒羽の姿を想像し、財布の中身と相談して、出来る限りの花火を買ってやることにしたのだった―――
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