真夏の夜の夢     平次side

 

 


最近オレ、ヤバいかもしれへん……

 

オレの同居人、黒羽快斗のことだ。

オレと黒羽が同居生活を始めて早4ヶ月。

最初はそれなりに仲良くやっていたのだ。

黒羽は話し上手で面白く、一緒にいるとつい時間が経つのも忘れてしまう。

それほどうウマの合うヤツだった。

 

だけど、最近…どうにも黒羽のことが気になって仕方がない。

あいつの取る何気ない仕草の一つ一つが妙に色っぽく艶かしくて…。

暑くなってくると、オレもそうだが黒羽も家に居る時は、タンクトップと短パンで過ごすことが多くなった。

長袖を着込んでいる時は気づかなかった。

スラッと伸びた細い手足。

男にしては色も白くて…艶かしい。

露出が多い肌は、思わず触れてみたくなるほどオレの視線を虜にした。

男に触れてみたいと思うなんて、自分でも正直驚いた。

顔も整っていて、髪もフワフワ。瞳もクリクリして大きい方だから、女とよく間違われてイヤだと本人は言っていた。

オレは別に女と間違えはしなかったが、キレイなヤツだとは思っていた。

だけど、それだけだった、はず…なのに。

 

身体ばかりに気を取られていたが、よく見ると、黒羽自身も色っぽい表情をよくしていた。

何かを考えている時のうつむき加減の表情も、美味しそうに食事を頬張る姿も、オレに満面の笑みで微笑みかけてくる姿も、
全てがオレの視線をを釘付けにして離さない。

黒羽のすることがいちいち気になって仕方がない。

もっと見つめていたい。

もっと、オレを見て欲しい。

 

この手に抱きしめたい―――…

 

そんなことを一度でも考えてしまったら、もう止まらない。

どんどんオレの妄想の中で黒羽はオレに犯されていく。

妄想の中の黒羽は、とても従順でオレを素直に受け入れてくれる。

自分の妄想が夢にまで出てきて…正直どうしようもないくらい堕ちてしまったことに気づかされた。

 

黒羽が欲しく欲しくて堪らない。

でも、アイツはオレのことをそういう対象としては見ていない。

だけど、もしかしたら、オレと同じで何かの拍子にオレのことを意識してくれるようになるかもしれない。

オレのことを好きになるかもしれない……

オレに抱かれてくれるかもしれない――……


 

オレは切羽詰った思いで、昼間こっそりと黒羽の部屋の鍵を盗んで合鍵を作った。

一応プライベートは守ろうということで、最初に部屋に住む時にお互い部屋に鍵を取り付けた。

オレは鍵を掛けることは滅多に無かったが、黒羽は毎晩必ず鍵を掛けて寝る。

マジックのタネを見られたくないからだと本人は言っていた。

 

(まさか、オレが襲うと思うてんのとちゃうやろな?)

 

オレは少々不安になりながら、黒羽が寝静まるのを待った。

いつもは二人で遅くまで起きてたりするが、オレがもう寝る、と言って部屋に行くと、黒羽もそれ以上起きていようとはせず、

すぐに部屋に戻って寝てしまう。

だから、今日も早めに部屋に行って寝たふりをした。

黒羽もしばらくすると、部屋に戻って明かりを消した。

完全に寝静まったのを見計らって、オレは合鍵を手にして部屋を出た。

音があまり出ないように、静かに鍵を開け、そおっとドアを開けた。

個人の部屋にあまり入ることはないので、部屋中黒羽の匂いがして、どきんと胸が高鳴った。

高鳴る胸の鼓動を抑え、黒羽に近づく。

黒羽が起きてはいけないと、明かりはリビングのライトスタンドだけ。

それでも黒羽の表情がはっきりと見えた。

 

(可愛い寝顔やな――……)

 

オレはしばしその寝顔に見惚れていた。

が、ふと我に返って顔をそっと近づけ、静かに唇を重ねた。

想像もしていなかった柔らかい感触に、またもやオレの心臓は大きく跳ねた。

生身の黒羽はオレの想像なんかよりずっと良くて、性欲を刺激された。

 

(でも焦ったらアカン。徐々に馴らしていくんや……)

 

一日目は軽いキスだけに止めた。

その時は大丈夫だと思ったのだが、翌朝黒羽の顔を見て、自分が取り返しのつかないことをしてしまったことに気がついた。

 

黒羽の顔がまともに見れない。

黒羽の顔を見てしまうと、昨夜の口付けが頭をよぎってしまう。

柔らかかった感触を思い出し、思わずオレの性欲がムクムクと膨れ上がる。

 

(オレ…自分でとんでもないことしてしもた――……)

 

それっきり黒羽の部屋に侵入することはすまい、と思っていた。

だけど、黒羽が寝静まったのを感じると再び起き上がり、無意識の内に鍵を開け、部屋に侵入していた。

黒羽に近づき、唇を重ねてふと我に返った。

 

(オレは何をしとるんや…ッ)

 

だけどもう止められなくて、今度は触れるだけじゃ足りなくて、舌を割り入れ濃厚なキスをお見舞いした。

した後にしまった!…と不安になったが、黒羽は起きる気配は見せなかった。

それ以上何もすることが出来なくて、名残惜しむように黒羽の部屋を後にした。

 

理性は警告を発するが、オレは自分の欲望を抑えることが出来ずに毎晩黒羽の部屋に通うようになっていた。

 

4日目にしてようやく口だけじゃなく、胸を攻めてみることにした。

黒羽は一度寝ると熟睡してなかなか起きることがない。

最初は全くの無反応だったが、少しずつ反応を返してくるようになった。

舌を絡ませれば、絡み返してくる。

首筋を舐めれば身体を動かし、可愛い反応が返ってくる。

オレはボタンを外し、上半身を露にさせた。

思わずしゃぶりつきたくなるほどキレイな素肌。

オレは少しはある理性を抑えながら、そっと肌に口付けた。

 

「…ん…っ……」

 

今度は胸の果実に触れてみる。

 

「…あ……ッ……」

 

途端に黒羽の身体が大きく脈打った。

これ以上はヤバイかな……とオレは素早くボタンを留め、部屋を出た。

 

(続きはまた明日な…)

 

夜はこんなに大胆なことをしているくせに、昼間は黒羽と全く顔を合わすことが出来なくなっていた。

自分を避けるようになってしまった同居人を寂しそうに見つめる黒羽。

 

(嫌われたと思うてるやろか…けど、アカンねん。お前の顔見たらヤバいんや、オレ…)

 

昼間顔を合わせられない分、益々夜の行為は盛んになっていった。

もしかしたら、起きてるんじゃないだろうかと思うことがある。

最初は気づいていなくても、あれだけ激しく求められたら、いくらなんでも途中で目が覚めそうである。

それに返してくる反応も寝ているとは思えなかった。

寝ているだけであんなに甘い声は出せないだろう。

昼間も、最初は避けられて寂しそうだったけど、この頃はなんだかオレを意識しているように思える。

少し顔を赤らめてオレを見ていることがあった。

 

(もしかして、夢やと思うてんのか…?)

 

反応が著しく顕著で、オレの雄は益々煽られる。

だけど夢だと思われているうちは、あまり激しいことは出来ない。

出来ない…が、黒羽の反応が可愛い過ぎて、オレはついにズボンに手を伸ばしてしまった。

反応はしているが、今まで一度も触れたことの無かった部分。

 

(これが、黒羽か………)

オレはドキドキしながらそれに触れた。

自分と同じモノとは思えない、触っただけでこっちの方が感じてしまいそうだった。

黒羽も触られるのを待ち焦がれていたようで、今までに無い程の甘い吐息が口から漏れた。

 

「…は…あ……っ…ん…」

 

腰も僅かだが動かして、気持ち良さそうにもがいている。

 

「これが…気持ちええんか?我慢せんでも出したらええねんで―――?」

 

オレは掻く手を早めながらそう耳元で囁いてやると、それが引き金になったのか、黒羽はオレの手の中で達してしまった。

ふと黒羽を見れば、うっとりするほど恍惚とした顔を天井に向けていた。

先に進みたい欲望に駆られたが、まだ黒羽は夢だと思っている。

今なら先に進んでも大丈夫そうだったが、それはオレの理性が許さなかった。

 

(そろそろ…気づいてくれてもええんやけどな…)

 

夢現のようにおぼろげな表情をしていた黒羽だったが、達したことで、再び深い眠りについてしまった。

 

(後始末、しとかな……)

 

 

 


今日もいつもと同じくらいの時間だった。

黒羽は寝ているはずだった。

だけど、唇に軽く触れた瞬間、黒羽の身体に緊張が走ったのが分かった。

いつもだったら、突然の眠りの妨害者に顔を逸らすこともあった。

だけど、この反応は…

オレはどうしようかと迷ったが、そのまま続けることにした。

 

(いつまで寝たふり出来るか見物やなー…)

 

オレは少し意地悪くほくそ微笑んだ。

肌に舌を這わせると、必死で快楽から逃れようと、シーツを握り締めているのが見えた。


(そんな反応も堪らんで……)

 

いつもは痕を付けないようにと、軽く吸うだけだったが、今日は黒羽も起きている。

そろそろ痕付けてもいいだろう。そう思い、黒羽の肌をキツく吸い上げた。

これはさすがに耐えられなかったのか、ついに黒羽から甘い声が漏れた。

一度出てしまうともう止められない。黒羽の口から次々と甘い吐息が漏れ始めた。

もう寝たふりも出来なくなった黒羽が薄っすらと目蓋を開いた。

オレはやっと観念したかと、黒羽の耳朶に軽く甘噛みしながら囁いた。

 

「最初から…起きとったんやろ?どや、もっと…気持ちようなりたいか?」

 

黒羽は少し戸惑った顔をしていたが、自分も正直になることにしたのだろう。

瞳を潤ませながら、オレの顔を見つめた。

それだけで答えは十分だった。

 

 

 

初めて触れる、黒羽の蕾は熱くてキツくてどうにかなりそうだった。

指で徐々に馴らさなくてはならないのに、すぐに自身を突き立ててしまいたい衝動に何度も駆られた。

その度にオレは欲求を抑えるのに必死だった。

黒羽の甘く啼く声が堪らなく甘美で狂いそうになる。

黒羽が自分から舌を絡めてきた時は、正直限界だった。

これ以上は抑えられない。

 

「快斗…そろそろ…ええか?」

 

(もう、アカン…黒羽ん中に、入りたい――……)

 

「はっとり……」

 

黒羽は衝撃に備えたのか、ぎゅっと目を閉じてオレを受け入れる体制に入った。

そんな何気ない仕草も堪らなく愛おしい。

オレは少しだけ理性を取り戻し、優しく囁いた。

 

「ほな…ちょぉ我慢してや…痛いんは最初だけやから…」

 

オレは黒羽に負担が掛からないように、ゆっくりと腰を沈めて行った……。

 

 

 

 

黒羽はよほど気持ち良かったのだろう。

達すると同時に意識を失っていた。

そんな黒羽を愛しく思い、腕枕をしてやった。

しばらくじっと見つめていると、黒羽がふっと意識を取り戻した。

先ほどの情事を思い出したのか、急に顔が真っ赤になった。

今度こそ夢ではなく、現実に起こったことだと認識したらしい。

 

「起きたんか?」

「あ…服部…」

「さっきの…ちゃんと覚えとるみたいやな」

「わ…忘れるわけねーだろっ!!」

 

(昨日まで夢やと思うてたのに現金なヤツやな〜もうええか、タネ明かしても)

 

「オレが毎晩ここに通って来てたん覚えてるかー?」

 

黒羽は案の定びっくりした顔でオレの顔を見つめてきた。

 

「夢じゃ、なかった…の、かよ…。でも朝起きたら服もちゃんと着てたし…キスマークだってついてなかっ…」

 

(やっぱりあんだけ啼かされても証拠残してへんかったから夢や思うてたんやな…)

 

オレは意地悪く笑って言った。

 

「証拠を残すようなヘマ、このオレがするわけないやろ?
やるなら完全犯罪やでvそれにな、軽く吸うだけじゃ痕は付かへんねんで。

知らんかったんか?まあ、今日は黒羽も最初から起きてたし、遠慮なくオレの痕つけさせてもろたけどなー」

「こ…この…っ」

 

黒羽が更に顔を真っ赤にしていく。相当怒っているみたいだ。

 

「この…ムッツリスケベ…ッ!!」

 

(そのお陰で黒羽をモノに出来たんやで?)

 

「おおきに。せやかてぜんっぜん起きひんお前も悪いんやで?起きへんくせに反応だけはやたら良くてな〜

あんまり可愛いて止められへんかったわ」

 

オレは更に黒羽の逆鱗に触れそうな言葉をワザと選んで言ってやった。

 

「んなこと言うなら、もう二度とヤらしてやんねーからなッ!!」

 

黒羽はこれでオレの口を黙らせることが出来たと思っただろう。

 

(でもな、オレの方が一枚上手やねんで?)

 

オレはニヤッと笑って言った。

 

「別にええけど…快斗ん方が我慢出来へんのとちゃう?ごっつぅ気持ちえかったやろ?

昨日もな、射れて欲しそうにしてたやん自分。一応夢や思てるみたいやし、我慢すんの必死やったんやで、オレ」

「し…知るかっ!!てか欲しそうになんかしてね――ッ!!ふざけたこと抜かすな〜ッ!!」

 

黒羽は思いっきり枕を投げつけてきたが、そんな態度もオレにしてみればひどく可愛いものだった。

 

一度手に入れたモンは簡単には離さへん主義やから、これから覚悟しとくんやで……

 

 

ため息をつく黒羽を尻目に、オレは黒羽にしてみれば迷惑な誓いを立てるのだった―――…。