オレはふとした疑問を黒羽に投げかけた。

 

「なあ、なんでいっつも鍵掛けてたん?」

「あ!!そうだよ!オレ鍵掛けてたのに、何で部屋ん中入って来れた訳?平次ピッキング得意だった?」

「ア、アホ抜かせ!ちょっとな…合鍵作っただけやねん」

「あ…合鍵って…そこまでして夜這いかける?普通…」

 

黒羽は呆れたようにため息をついた。まあ呆れられて当然といえば当然だが。

 

「快斗こそ何で鍵掛けてたんよ?マジックのタネ見られたくないから、なんて理由じゃ納得せえへんで?

オレそこまでする気無いし。他に理由があるんやろ。」

 

探偵の顔で詰問すれば、途端に黒羽の顔が曇った。

やはり別に理由があったのだ。

誰にも知られたくないことはあるし、それ以上は追求しないでおこうと思ったのだが、

顔を一瞬曇らせたと思うと酷く慌てふためいて何もないと言い張るので、ちょっと意地悪してやろうと思ってしまった。

 

「そ〜んなにオレに見れたら困るもんあんねや?何やろな〜普通じゃ手に入らんようなごっついエロ本とか?他には…」

「バ…バカ!!オメーじゃあるまいし、んなもん隠してる訳ねーだろ!!オレは…ッ」

 

言いかけて慌てて言い噤んだが、時既に遅し。

それでは自白したも同然だった。

 

「ほー、やっぱ何か隠してんのや。どこに隠してあんのかな〜?」

 

オレは軽く部屋を見回し、隠しやすそうな場所を探してみた。

すると、黒羽がクローゼットを無意識に隠そうとする動きを目の端で捕らえた。

 

「あそこか」

 

オレはにんまり笑うと、ベッドから降りてスタスタとクローゼットの前まで歩いて行った。

黒羽はオレの後を追っかけて、クローゼットの前に立ちはだかった。

先ほどまでの慌てふためいた姿が嘘みたいに、鋭くオレを射抜くような瞳を向けていた。

 

「いずれバレるとは思ってたから・・・覚悟は出来てた。もう隠さない。…覚悟はいいか?服部」

 

静かに問いかける黒羽はあまりに真剣で、思わずこちらが動揺してしまった程だ。

何を隠してあるというのだろう。この扉の向こうに。

オレは怖くもあったが、それ程真剣に問われれば、こちらも本気になるしかない。

元より黒羽の全てを受け入れる覚悟はあったのだ。

オレは唾を飲み込んで、クローゼットの扉を開いた。

 

「…これ……」

 

クローゼットの中から出てきたのは、ハンガーに吊るしてあった真っ白いスーツ。

そしてその下に置かれてあるのは、これまた真っ白いシルクハットにマント…。

それだけならまだ他の可能性もあったのだが、手にしたものは他に疑う余地のないものだった。

四葉のクローバーのマークが入ったそれは…

 

 

「キッドのモノクル…まさか…」

 

オレはモノクルを手にして黒羽を振り返った。

黒羽はオレの手にしたモノクルを取り、右目に嵌めた。

 

「…そう。オレがキッドなんだよ、服部。驚いた?」

 

オレは黒羽を凝視したが、伊達や酔狂でそんな事をするはずがない。

事実なんだと受け入れる他はない。

 

「…すぐには信じられん事やけど…モノクルまで見せられたら信じん訳にはいかんな。

まあ、キッドのコスプレしたいいうんやったら話は別やけど…そうやないんやろ?」

 

黒羽は頷きはしなかったものの、その瞳でYESと答えた。

不敵に微笑む姿は、普段の黒羽からはとても拝めないものだった。

 

(これがキッドなんやな…)

 

いつもは人懐っこくて可愛いらしいしぐさをする黒羽だったが、今の黒羽にはそれがない。

全身を纏う気配すら高尚で、近寄りがたい雰囲気がにじみ出ている。

オレを射抜く瞳も思わずたじろいでしまうくらい、強い力を持っていた。

オレはもっとキッドを堪能したいと思ってしまった。

 

「オレな、キッドと直接対決したことないやんな?」

「…ない、けど…?」

 

何を言う気なのか全く読めない黒羽はキッドの気配はどこへやら。不思議そうな顔でオレを見やった。

構わずオレは黒羽にまくし立てた。

 

「オレ、近くでキッド見たことないやんな!?」

「…そうだけど!何でイチイチオレに聞くんだよ!?」

「見して」

「…は?」

「見してッ!!」

「だから何をだよッ!?」

 

はっきり言いやがれ!と黒羽は鋭い瞳で睨み付けた。

オレは少し落ち着きを取り戻し、本題に触れた。

 

「黒羽のキッド見して!オレ間近で見たことないんやもん。目の前で見たいわ!!」

「見せてって…これ一応仕事着なんだぜ?そんなあたり構わず見せれるかよッ」

「そんな冷たい事言わんといてーや。オレと黒羽の仲やん」

「…なんか嫌な予感するから、あんま今着たくないんだけど…」

「気のせいやろ。なんならオレが着せてやろかー?」

 

黒羽はギョッとして身を引いた。

 

「わ…分かったから!ちょっと向こう向いてろッ!!」

「ほんまか!?」

 

あまりにしつこいので観念したのか、黒羽は無理やりオレを反対側に身体を向かせ、クローゼットに手を伸ばした。

オレは少し横目でそれを見ていると、目の前に真っ白いマントが翻った。

 

「…これで満足していただけましたか?西の名探偵」

 

そこには上から下まで真っ白な怪盗の姿があった。

思わず見惚れてしまう程、綺麗な立ち姿だった。

 

「…綺麗やなぁ。他のヤツに見せとーないな…」

「これはこれは…お褒めに預かり光栄ですよ?」

「お世辞とちゃうで。本気で…閉じ込めたいわ」

「私は怪盗ですから捕まる訳には行きませんね。名残惜しいですが、これで…」

 

キッドがまたマントを翻そうと手を伸ばした。きっと黒羽に戻る気だ。

そうはさせまいと、キッドの腕を掴んで身体を引き寄せた。

 

「…名探偵?」

「ヤバイわ…自分、なんでそない色気振りまくん?」

「ちょ…ッ離し…!服部ッ!!!」

「敬語口調も色っぽくてええけど…その姿でその言葉使いもええなぁ」

「…なッ、バ…バカ…ッ…んッ……」

 

キッドは突然唇を塞がれ、身を固くした。

が、角度を変えて唇を啄ばんでやると、段々と全身の力が抜けていった。

 

「…は…ぁ……ッ」

「その姿…めっちゃそそるわ…」

「は…とり……」

 

オレはシャツのボタンを外していった。

露になる素肌。いつもと違うように見えるのはキッドの衣装を着ているからか。

白い衣装を身に着けているにも拘わらず、キッドの素肌は白く透き通って見えた。

オレはその姿に敬意を込めて、キッドのモノクルにキスを落とした。

そして頬に、耳朶に、首筋に……

 

「…んッ………」

 

胸の果実を指で触れただけで、全身が脈打つ。

先ほどの愛撫が効いているせいだろう。いつもよりも敏感な反応だ。

そしてそっと舌を這わせてみる。

 

「ああぁん……ッ……」

「ここ…また固くなってきたで…」

「い…いやぁ……ッ……!」

 

ズボンの上からキッドに触る。キッドはもどかし気に身体を動かした。

 

「どないして欲しいん?」

「…なに…も…」

「ほんまに?このままでええんか?」

 

オレはズボンから手を離した。次のキッドの行動は読めている。

 

「ダ…ダメッ……」

 

キッドが慌てて手を掴んだ。顔を真っ赤にさせて何かを伝えようとしている。

オレは優しく微笑むと、キッドのモノクルを外してやって、右目に軽く口付けた。

 

「気持ちよく…なりたいんやろ?」

 

耳元で囁くとキッドは瞳を潤ませながら、こくんと頷いた。

 

「おね…がい……」

 

こんなにはっきりとおねだりされたことが無いので、オレは理性が吹っ飛びそうだった。

抑えようと努力はするが、出来ているかも分からなかった。

オレは自分のズボンを引き下ろし、キッドの腰を荒々しく引き寄せた。

 

「…さっき濡らしたから、もう濡らさんでも平気やろ?…いくで」

「ああああぁ……ッ……」

 

一気に自身を突き入れ、全部が収まると激しく腰を前後させていった。

突き入れるのに少し痛みを伴ったが、そんなのは関係ない。

欲望の方が遥かに凌駕し、欲求を満たすので頭は一杯だった。

キッドが痛がる姿も遥かに官能的に見え、益々オレの雄は凶暴さを増していった。

 

「はっ………へい……じ…」

「……ッ!……」

 

痛みを訴えるでもなく、キッドは突然オレの名を呼んだ。

初めて名前を呼ばれたことで、オレの理性が一瞬戻った。

尚もキッドはオレの名を呼んでいた。

 

「へい…じ……ぃ」

「かい…と……?」

「オレ…平気…だから……」

「かいと……」

 

本能の煽るままにキッドを抱いていたのが急に恥ずかしくなり、オレは繋がったまま、ギュっと黒羽を抱きしめた。

 

「スマンな…痛かったやろ?オレ…アカンなァ…。自分相手やと、理性が飛んでまうわ」

「…いいよ。だってそれだけオレが魅力的って事だろ?」

「えらい自身やないけ〜」

「そうかな〜?」

「まあその通りやけど。ほんま、オレの恋人は魅力的で適わんで」

 

オレは笑いながら、チュッと軽くキスをした。

そして互いに見つめあい、今度は熱い口付けを交わした。深く 深く…

何度も互いを確認するように、舌を絡ませ熱を伝え合った。

ようやく唇を開放して、再び黒羽を見つめた。

そこには蕩ける程極上の笑みを浮かべた黒羽の姿があった。

 

「大好き」

「快斗…」

「大〜好き!!」

 

そういって黒羽はオレを強く抱きしめた。

黒羽の体温と鼓動が伝わってくる。

とても温かくて、幸せな気持ちになった。

 

「オレも…めっちゃ好きやで」




 

初めて重なった夜。

初めて気持ちが一つになった夜。



 

 

幸せを全身で感じたこの日を、オレは一生忘れない―――――





end



続きを書く気は更々なかったんですが、
Jさんに平次編の続きが読みたい!と言われ、少し妄想してみたら
平次×キッドでいけるかも…と思いついて書き殴ったものです。
快斗が鍵を掛けてた謎も一応解けた!(それがどうした)