糾合

 

 

日が高いうちに出発したというのに、館に着く頃にはとっぷりと日が暮れていた。

おまけに雨に降られて、オレはびしょ濡れになっていた。

 

「バイクはこんな時あかんねんな〜。山の天気は変わりやすいっちゅーけど、ほんま勘弁して欲しいわ」

オレは真っ黒な空に向かって文句を投げかけ、一気に山道を走らせた。

途中分かれ道に差し掛かりバイクを止めたが、黄昏の館の標識が出ている左側の道へと向きを変えてバイクを再び走らせた。

 

「もうすぐやな…」

胸の鼓動が早くなる。

雨に濡れているのも判らなくなるほど、オレの頭はキッドで占領されていた。

 

もうすぐ…もうすぐ会えるんや……

 

標識通りに進んで行くと、しばらくして館が見えて来た。

橋を渡るとすぐ館に到着した。

 

「はあ〜やっと着いたで…」

バイクを駐車場の端っこに止めたオレは、バイクを降りて先に止まっていた車に目を向けた。

ベンツにフェラーリにポルシェ、おまけにアルファロメオが止まっている。

オレは思わず萎縮してしまった。

一体どんなメンバーが晩餐会に呼ばれたのだろうか?

オレはノックするのももどかしく、玄関の扉を荒々しく開けた。

ホールに居た人間が一斉にこちらを振り返った。

 

「服部?」

「服部君!?」

「服部様!?」

「大阪ボウズ!!」

4人が同時に叫んだので、ホールに声が響き渡った。

が、オレはその場にいた一人の人物に目が釘付けになっていた。

 

「く…どお?」

幸い、オレの呟きを理解した者は一人しか居なかった。

工藤が慌ててオレの側まで駆けて来た。

 

「あれ〜?平次兄ちゃん、テストが近いから今日は断ったんじゃなかったの?どうしてここに?」

工藤の口調はおどけた様子だが、顔が笑っていない。

オレが来たら都合悪いんか?

ふとそんな事を思ってしまう。

しかしオレは顔には出さずにこう告げた。

 

「スマンスマン。おかんが勝手に断ってもうたんや。けど、小切手返さなあかんしどうにも気になってな、来てしもうたんや。

 食事の事やったら気にせんでもええで、姉ちゃん」


オレはメイド服を着た、地味な姉ちゃんに安心させるように笑って言った。

 

「あ、いえ、余分に食材を買って来ていますので、服部様のお食事もご用意致します」

「ほんまか?えろうスマンな〜おおきに、ありがとさん」

オレは、一応済まなさそうにしてメイドに礼を言った。

 

「それと、スマンついでにシャワー浴びさせてくれへんか?バイクで来たんやけど、見ての通り、びしょ濡れになってしもてな〜」

「かしこまりました。すぐにご用意致しますので、ここでお待ちください」

「おおきに」

そう言って、メイドはパタパタと奥に引っ込んでいった。

オレの突然の登場に驚いているのは毛利の姉ちゃんと毛利のおっさん。

工藤は相変わらず不機嫌な顔でオレの様子を窺っていた。

 

「ここに集まった探偵っちゅーのは五人なんか?」

室内を見回して、オレは誰ともなしに問いかけた。

見慣れたメンバーの他にここに居るのは、テレビなどでよく見かける茂木遥史に大上祝善、千間振代の三人だった。

 

えらい名探偵が集まってんな…。ほんまにただの晩餐会か?

 

「あともう二人いるみてーだぜ?女の人と少年らしい」

工藤がオレに声を潜めながら話し掛けた。

 

「少年…?お前とちゃうんか?」

「バーロォ、コナンのオレが呼ばれる訳ねーだろ?まあ最初のリストに工藤新一の名前は入ってたみたいだけどな…。

 最初はお前かとも思ったけど違うみてーだし…気になるよな」

「オレとお前以外の少年探偵か…面白いやんけ」

 

こりゃー以外に楽しくなりそうやな…

 

「お父さん…玄関の扉、変な模様だけどこれなんだろう?」

毛利の姉ちゃんがふと玄関の扉に付着しているシミを指差して言った。

 

「おっと、気をつけな。たぶんそいつは古い血の跡だ…」

茂木遥史が扉に目を遣り、存外に言い放った。

 

「ええっ!?」

毛利の姉ちゃんは慌てて扉から後ずさった。

すると、背後から別の女の声が聞こえてきた。

 

「扉だけじゃないわ。壁には流下血痕、床には滴下血痕…この館内のいたる所に血が染み込んだ後が残ってるわよ。

 どうやらこの血痕の主、一人や二人じゃないみたいね」

手袋を嵌めて、なにやら手すりに霧吹きを吹きかけている。

そしてもう一方の手で手すりに影を作ると、そこにはくっきりとシミのような青紫色の蛍光が浮かび上がった。

すると、また別の男の声が階上から聞こえてきた。

 

「ルミノール…血痕に吹きつけると血液中の活性酸素により酸化され、青紫色の蛍光が放出される…

さすが元検視官、いい物をお持ちで…槍田郁美さん?」

「あら…お褒めに預かって光栄だわ?ボウヤ…」

槍田郁美があざける様に階上の男に視線を向ける。

 

「白馬探といいます。宜しく」

そう言いながら、白馬探は階段をゆっくりと下りてオレ達の目の前に姿を現した。

ホールに居た人間は彼の姿に釘付けになっていた。

そんな彼に一番に口を開いたのは以外にも、毛利のおっさんだった。

 

「は、白馬?ってことは白馬警視総監の…」

おっさんは驚いて、最後まで言葉を発する事が出来なかった。

 

「ええ、確かに白馬警視総監は僕の父ですよ、毛利さん」

 

警視総監の息子やったんかいな…。

オレと境遇が似てんな、こいつ…

 

そんな事が頭をよぎっていたが、鋭い羽音で思考が停止した。

 

「た、鷹!?」

一同皆驚いている。当然と言えば当然の反応だ。

優雅に舞い降りてきいた鷹は、白馬の腕にバサリと止まり、翼を休ませ毛づくろいを始めた。

 

「驚かせてしまってすみません。英国で僕と行動を共にしていたせいか、血を好むようになってしまったらしくて…。

 でも、わざわざ帰国した甲斐がありましたよ。

 長年隠蔽され続け、噂でしか耳にしなかったあの惨劇の現場に40年の時を経て、降り立つ事が出来たのだから…。

僕の知的興奮を呼び覚ますには十分過ぎますよ…」

白馬は気障ったらしい口調で、不敵な笑みを浮かべてそう言った。

 

「さ、惨劇!?」

毛利の姉ちゃんとおっさん、が声を荒げた。

 

「まあ、僕がここを訪れた理由はもう一つありますが…。そうだよな?ワトソン!」

白馬はワトソンと呼ぶ鷹に向かって話し掛けた。

 

…こいつ、鷹にワトソンなんて名前つけてんのか…アホちゃうか?

 

とは思いつつ、ヤツが最後に言った言葉が気になった。

ここを訪れた理由がもう一つある…と。

それはもしや…

そう思って工藤を見ると、工藤も複雑な顔をして白馬を見つめていた。

 

 

オレはシャワーを浴びる為に浴室へと向かっていた。

他のメンバーは、晩餐の仕度が整うまで暫くあるという事で、先にゲストルームへと通される。

オレは廊下を注意深く観察しながら歩いた。

 

…玄関からここに来るまでに2つ…

花瓶の中や額ん中に隠しカメラが仕掛けられとる…

防犯のため…ちゅー訳やなさそやな

オレらが監視されてんのか?

 

この山奥の別荘に不釣合いなまでの隠しカメラを眺めながら、オレは心の中で呟いた。

オレはバスルームに入って一応辺りを見渡し、カメラが仕掛けられていないかさりげなく確認した。

すると、洗面台の鏡の端の部分に不自然に穴が開けられているのを見つけた。

 

げっ!ここにも付いてんで!?

ここの主は覗き趣味でもあるんちゃうか?

 つーか分かり易す過ぎな場所に仕掛けとるんはわざとなんかいな!?

 

オレはげんなりしながら溜息をついて、鞄の中からスポーツタオルを取り出した。

 

「悪いけどオレにはそんな趣味ないからな〜」

 

そう呟いて、オレはタオルで鏡ごとカメラのレンズをスッポリと覆い、それから服を脱ぎ始めた。

 

ここに来るまでで自分は既に3つもカメラを見つけてしまった。

この晩餐を開いたのはヤツではないのか?

ヤツなら自分ごときに簡単に見つけられる場所にカメラを仕掛ける筈がない。

オレは頭が混乱して来た。

この晩餐を開いたのは一体……

 

「はあ〜生き返んで…」

熱いシャワーを頭から浴びながら、オレは先ほどの考えを反芻していた。

 

 晩餐を開いたのが誰かも気になるが、当面の問題は…白馬だ。

工藤と白馬、二人は同じ匂いを感じる。

工藤もそうだが、白馬もキッドと深い関係がありそうな気がするのは気のせいだろうか。

訳もなく、今自分が一番不利な立場に置かれている気がしてならない。

そんな理由は全然見当たらないのに。

 

オレの勘は結構当たるからな…良くも悪くも……

アイツらは敵に回したら厄介やっちゅーのも…

 

オレはシャワーの温度を更に上げ、気持ちが苛立つのを忘れようとした。

 

 

「おい服部。お前どうしたんだよ?来るつもりじゃなかったんだろ?なんで来たんだよ」

シャワーを浴びてスーツに着替えたオレは、ゲストルームに向かった。

ゲストルームに入るとすぐに工藤がオレに気づき、話しかけて来た。

 

「おかんが勝手に断ったんはほんまや。小切手も……返さなアカンしな」

「そんなの…郵送すりゃーいいだけじゃねーか」

「オレが来たら迷惑やったんか?」

工藤相手に下手な探りあいは時間の無駄だ。オレはいきなり確信をついてみせた。

案の定、工藤はうろたえていた。

 

「べ…別に、なんでオレがー…」

「今回の晩餐の招待主…に関係あるんやろ?オレも興味あんねや。大阪ではまんまと出し抜かれたからのー。

今回は邪魔はさせへんからな。ええな?く・ど・う」


オレは先に工藤を牽制した。工藤はぐうの音も出ないようだった。

 

大阪みたいにはいかんで、工藤!

 

そう言いながら、オレはある人物を凝視していた。

アイツは…ひょっとしてこの中に潜り込んどるんとちゃうやろか?

 

「晩餐の仕度が整いました。食堂でご主人様がお待ちです」

さっきのメイドのねえちゃんが、オレ達を部屋に案内するために部屋に入って来た。

オレはやむなく思考を中断させた。

 

メイドに案内されて部屋に入ると、そこには覆面を被った男が上座に座っていて、こちらに向かって話しかけて来た。

 

崇高なる七人の探偵諸君!我が黄昏の館によくぞ参られた…さぁ座りたまえ、自らの席へ

オレらは釈然としなかったが、取り合えず言われた通りに自分の名前が書いてある席を見つけて順番に座っていった。

オレは白馬の右隣、斜め前には例の男が座っている。

全員が席に着いたら、男が再び話し始めた。

 

君達を招いたのは、私がこの館のある場所に眠らせた財宝を探し当てて欲しいからだ。

私が長年かけて手に入れた巨万の富を…命を懸けてね

「い、命だと!?」

毛利のおっさんが叫ぶのと、けたたましい爆音がしたのはほぼ同時だった。

 

「な、なんや!?今の音!!まさか駐車場から!?」

オレは思わず席を立った。

 

案ずる事はない、君達の足を断ったまでの事…

男は詫びれる風もなく、事も無げに言い放った。

 

私はいつも君達探偵に追われる立場…たまには追い詰める側に立ちたいと思いましてな。

もっとも、ここへ来る途中の橋も同時に落としましたから、車があったとしても逃げるのは不可能だ。

もちろんここには電話はなく携帯電話も圏外…。

そう、つまりこれはその財宝を探し当てた方だけに財宝の半分を与え、ここからの脱出方法をお教えするというゲームですよ…。

気に入ってもらえましたかな?

「フン、虫が好かねえんだよ。てめえみてえな面を隠して逃げ隠れする野郎は!!」

男の隣に座っていた茂木探偵が徐に立ち上がり、男の覆面を剥いだ。

しかし、その顔を見て一同は絶句してしまった。

 

「マ、マネキンの首にスピーカー!?」

さあ!腹が減っては戦はできぬ。存分に賞味してくれたまえ…最後の晩餐を…

「くそ!!」

茂木探偵は剥ぎ取った覆面をテーブルに投げつけた。

 

「だ、誰が…一体誰がこんな事を!?」

「あら、毛利さんともあろう方が知らずに来たんですの?」

毛利のおっさんが初耳だ、という顔をして槍田の姉ちゃんを見つめ返した。

 

「ちゃんと招待状に書いてあったじゃない…『神が見捨てし仔の幻影』って…」

頬杖をついて槍田の姉ちゃんはそう言った。

その言葉を引き継ぐように、茂木探偵が口を開いた。

 

「幻影ってーのはファントム…神出鬼没で実体がねぇ幻ってこった」

そしてまた千間のばあさんが続きを引き継ぎ、口を開く。

 

「にんべんを添える『仔』という字は獣の子供…ホラ、『仔犬』とか『仔馬』とかに使うでしょ?」

「『神が見捨てし仔』とは新約聖書の中で神の祝福を受けられなかった『山羊』の事…。

 つまりこれは『子山羊』を示す文章です」

千間のばあさんから白馬に引き継がれた暗号の解読を、最後はオレが引き継いだ。

 

「英語で山羊はGoatやけど、子山羊の事はこう呼ぶんや…」

オレは毛利のおっさんの顔を見据えてこう言った。

 

「Kid…」

「な、何!?」

案の定青ざめた顔で叫ぶおっさんに、オレはしっかりとおっさんの目を見て、口を開いた。

 

「こう言えば分かりやすいやろ?

Kid the Phantom thief…」

 

「キ…キッド・ザ・ファントム・シーフ!?」

おっさんと姉ちゃんが同時に驚きの声を放つ。

 

「そう…狙った獲物は逃さない。その華麗な手口はまるでマジック…」

「星の数ほどの顔と声で、警察を翻弄する天才的犯罪者…」

「我々探偵が生唾を飲んで待ち焦がれるメインディッシュ…」

「監獄にぶち込みてえ気障な悪党だ…」

オレは四人の探偵達から紡がれる言葉をただ黙って聞いていた。

その内容はどれもまともではない。

怪盗への賞賛とも崇拝とも取れるその言葉の数々…。

四人の探偵達はそれぞれ、その怪盗への思いをぶちまけた。

そして極め付けが…

 

「そして彼は僕の思考を狂わせた、唯一の存在…。

闇夜に翻る、その白き衣を目にした人々はこう叫ぶ…怪盗キッド、とね!」


オレは思いっきり動揺していた。

 

な、なんや、こいつら!

皆キッドを狙って来たんかいな!?

暗号を解いたらキッドやっちゅー事はすぐにも解かる事やけど…こいつら絶対まともやない!

キッドの事を語る時の目ぇが皆ヤバかってんぞ!特に…こいつや、こいつ!!白馬や!

こいつ絶対ヤバいで!!まともやない!!

キッドを思い出しながら語ったあの顔!!なんちゅー気色悪い顔してんのや!!

やっぱりオレの勘は正しかってん!!

こいつとは関わらん方がええ!!

って、なんやー!?工藤までニヤニヤしてからに!!

こいつらん中でまともなん、まさかオレだけとちゃうやろな!?

 

と、そこまで考えてふと我に返った。

 

いや、工藤もキッドを狙っとるんやったら、こいつらの爆弾発言に冷静で居られる訳がないよな?

それやのに何で笑ろうとるんや?

まさか、ヤツの気配を感じ取ったんかいな?

キッドの気配を!?

やっぱりこの中におるんやな!キッドは!!

 

 

オレは内心複雑な思いで一杯だった。

 

キッドが側におるんかもしれんっちゅーのは嬉しいけど、恋敵が多すぎる・・・

こんなんでオレ、晩餐なんか楽しめんでー…。

 

オレは一人虚しく溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

コナンと白馬が平次の中ですごいキャラになってる…(大汗)

てか原作はまだ残り3話もあるぞ煤i ̄□ ̄!!

収集着くのか!?

赤字は読み飛ばしてくださっても支障ありません