「あ…ああ……ん……はぁ……っ…」
「我慢せんと、イッてええんやで……」
「せん…せ……」
「黒羽………」
「あ…ああぁ―――――…っ」
 

 
何でこんな事になったんだろう?
先生に抱かれて、あられもない声なんか出して。

 
 
そう、事の起こりは昨日の放課後。
ひょんな事から偶然、先生と新一のキスシーンを見てしまったのが始まりだった。

 
放課後の教室。
誰に見られてもおかしく無い状況で、先生は新一にこれでもかってくらい、濃厚なキスを浴びせていた。
新一の蕩ける様な顔に、オレは凄く感じちゃって。
そんな顔をさせる先生にも興味をそそられてしまって。
一度で良いから先生に抱かれてみたい、なんて思ってしまった。
新一にはふざけて言ったけど、もちろん抱いてもらえるなんて思ってもいなかった。

 
なのに。
帰り際、階段上から先生に見つめられて、こうなる事を予感していたのかもしれない。
先生と目が合った瞬間、オレの身体の一部が反応してしまった。
気のせいだと思う事にしたけど、翌日になっても変わらなかった。
先生を見ると、昨日の新一とのキスシーンが思い出されて、まともに顔さえ見れなかった。

 
その日の放課後。
オレは先生に残らされた。
明日の授業の準備をする為だったと思うけど、詳しい理由はもう覚えていない。
とにかくオレは、視聴覚室に呼び出された。
当番でもないのに何故オレなのか、疑う事も無く言われるままに視聴覚室へと入った。
先生が後ろ手にドアを閉めた。
この時、気付くべきだったのかもしれない。
しかし、もう遅かった。
この時既に、オレは先生の罠に嵌まっていたのだ。
 
「先生?オレ、何をすれば……」
「昨日、どうやった?」
「え?」
 
オレは何を訊かれたのか分からず、首を傾げた。
先生は真っ直ぐにオレの顔を見据えている。
眼鏡の奥の瞳は獣のように鋭く、長く見つめていたら捕らえられてしまいそうで、オレは目を逸らせてしまった。
 
「見とったんやろ?オレらのするの。興奮したか?」
 
やっと先生の言っている意味が分かって、オレは真っ赤になってしまった。
覗き見していたのがバレていたのだ。
そうか、だから帰り際、先生はあんな顔を……
 
「お…オレ…、別に誰にも言うつもりは……」
「ほんまか?」
「先生……」
「ほんまに誰にも言わへんか?」
「い、言いません!先生と新一がキスしてたなんて…っ!!」
 
そうオレが言い切ると、先生は何故かふっと笑った。
 
「!」
 
オレは一瞬目の前が真っ白になった。
先生がオレの顎を押さえ、唇を強引に奪ったのだ。
そして角度を変え、何度も何度も啄ばんでいく。
舌が侵入してくるのに、そう時間は掛からなかった。
息も出来なくて、酸素を求めるように唇を開いたら、そこから遠慮無しに割って入られた。
苦しくて足掻くオレをあざ笑うように、執拗にオレを追って来る。
根負けして少し舌を絡ませれば、凄い勢いで絡み取られ、吸い上げられた。
オレは感じすぎてしまって、足に力が入らなくなった。
そんなオレを両腕で支え、先生は更に攻め立てた。
オレは逃げられなかった。
否、逃げる気も起きなかった。
ただ、先生の浴びせるキスを身体中で受け止めていた――――…



 
 
 
どれだけ時間が過ぎただろうか。

 
漸く唇から解放されたオレは、がっくりと膝を落とした。
立つ事さえもままならない。
キスの感触が生々しく口の中に残っている。
そんなオレを楽しそうに先生は眺めていた。
 
「なんや、そない気持ち良かったんか?キスしかしてへんのに」
「先生……」
 
オレは潤んだ瞳で顔を上げ、先生を見つめた。
顔は赤く火照っている。
先生は少し意地悪くオレの顔を覗き込んだ。

 
「今のは覗き見しとったお仕置きや」
 
オレは何か言おうと口を開きかけたが、先生が遮った。
 
「ここ、感じてんねやろ?続き…しとうないか?」
「あ…っ…」
 
先生は布越しに硬くなりかけたオレ自身に、そっと手を触れた。
触れられた部分が更に熱くなって、オレはもうどうしていいか分からなかった。
先生は試すようにオレに囁いた。

 
「昨日の事、誰にも喋らんて誓うたら、続き…したるで…?」

 
 
この状態で否と言える筈も無く、オレは静かに頷いたのだった――――



 
 
それから、学校じゃ不味いというので(当たり前だ)先生の家に連れて来られた。
そこはマンションの一室。
部屋に入るなり、オレはベッドに押し倒された。
先生は眼鏡を外してサイドテーブルに置き、そしてネクタイを緩めた。
たったそれだけの動作に、オレは凄く興奮してしまった。
いつも学校で見慣れている先生じゃない。
眼鏡を外す仕種がやけに色っぽくて、ぼーっと見惚れていたら、先生に唇を奪われた。
 
「こら、何ぼーっとしとんねん。これからええことしよーっちゅーのに」
「…だって、先生カッコ良過ぎなんだもん。オレ、先生の眼鏡取るとこ始めてみた」
「…ああ、まあそうかもな。家じゃあんましてへんけど」
「オレ、こっちの方が好きだな」
「そうかぁ?」
「うん。だって、してない方が先生の本心に触れられる気がする。眼鏡してる時はちょっと自分作ってるでしょ?
笑顔が定着してる人気者のセンセ?」
 
オレはニッコリと微笑んでみせた。
先生は参った、という顔でオレを見た。
 
「作ってへんて。オレは地でアレや」
「どっちでもいいけどさ。オレは……」
 
先生はオレの口を遮った。
 
「お喋りは終わりや。ここからは大人の時間やで。覚悟はええか?黒羽…」
「うん…、先生…」
 
オレは先生の瞳を見つめ、そして静かに瞼を閉じた。


 
 
そこから先は、ほとんど覚えていない。
ただ、先生の愛撫を全身で感じていた。
オレは快感の渦に溺れていた―――――…
 


 
 
興奮の波が引いて、しばらくしてからオレは意識を取り戻した。
先生は横で本を読んでいた。
オレに気付き、先生は指で本を挟み、もう片方の手で優しくオレの髪を梳いて微笑んだ。
 
「気ぃついたんか?自分、イッた後コロッと寝てまいよったな〜。そない気持ち良かったか?」
「うん…。ね、先生ってば海外ミステリーなんて読むんだね。以外〜。しかも原書だし!オレだったら寝ちゃうよ、そんなの読んでたら」
「オレが英語教師なん忘れたか?こんくらい朝めし前やで。黒羽も英語は得意やろ?こんくらい読めるやろ」
「オレが言ってんのはミステリー。何が面白いのか全〜っ然分かんねー。マジックの練習してる方がよっぽど楽しいよ」
「ま、好きなもんは人それぞれやしな。工藤もオヤジさんが推理小説家なだけあって、相当の数読んどるみたいやけど」
「…先生」
「何や?帰るんやったら送ってくで」
 
先生は本を脇に置き、身体を起こした。
オレは先生の顔を下から覗き込んだ。
本を読む為か、先生はまた眼鏡を掛けていた。
オレは思わずそれを両手で外した。
先生は少し困惑した顔をして、眼鏡を奪い返そうとした。
 
「く…黒羽?何すんねん。眼鏡返し」
「ねえ。もう一回…して?」
「へ?」
「もう一回…してくれたら返す」
「黒羽…?」
「これで終わりなんて、嫌だ。だって、何をされたかほとんど覚えていないんだ。
すっごく気持ち良かった。だけど、それだけしか記憶になくて…」
「黒羽…」
「もっとちゃんと先生を覚えていたいんだ。先生を感じたいんだ。ダメ?先生…」
 
先生はちょっと考え込んでしまったけど、オレは後悔はしていなかった。
だって、本当にまた抱いて欲しくなったんだ。
さっきは初めてで、何が何だか分からずに終わってしまったから。
オレを感じさせる先生の動作の一つ一つを覚えていたい。
口止め料なんだったら、今夜が最後だろ?
少しくらい我侭聞いてくれてもいいよな?
オレは哀願するように先生を見つめた。
先生は根負けしたのか、分かった…と低く呟いた。
そしてオレの腕を掴んで眼鏡を奪い、オレの身体の上に覆い被さってきた。
 
「さっきは初めてやから優しうにしたけど…二回目は本気出して行くで?それでもええか?」
 
耳元で囁いたその言葉に、オレはまた感じてしまった。
本気を出してくれる、というのなら本望だと思った。
もっともっと先生を感じられる。
 
「いいよ、先生…」

 
そしてオレ達は再び身体を重ねたのだった――――…
 


 
 
隣では快斗がスウスウと可愛い寝息を立てて眠っていた。
快斗の身体には無数の赤い華が散りばめられていた。
服部はそれを見つめ、溜息をついた。
 
「オレとした事が大人げないで…」
 

 
結局、快斗が欲しがるのでもう一回抱いた。
それまでは良かった。
が、今度は自分の方に火がついてしまって、結局3回も抱いてしまった。
初めてでこんなに抱けば、快斗も辛いに違いない。
なのに快斗は全然嫌がる素振りを見せなかった。
だから、余計に煽られた。
欲望のままに抱いてしまった。
 

 
最初の1回はもちろん手加減していた。
服部は初めから一回ぽっきりで終わらせるつもりなど毛頭無かった。
だから、優しく優しく抱いて、自分の身体を忘れられない様にしようと思った。
上手く頃合を見計らって、こちらからセックスの誘いをかけるつもりだった。
理由などどうとでもなる。
だから、さっき快斗から抱いてくれと頼んで来たのには正直驚いた。
快斗はまんまと自分の術中に嵌まったのだ。
服部は内心ほくそ笑みながら、快斗の哀願を叶える振りをした。
 
快斗はこれで最後だと思っているのか、全身全霊で自分に応えてくれた。
もっと啼き声が聞きたいと言えば、あられもなく甘い声を張り上げる。
中々入れようとしない自分に痺れを切らし、早く欲しいと訴える。
腰を動かせと言えば、恥じらいながらも少しずつ動かしてみせ、こちらを満足させてくれた。
これだけ可愛い事をされて、簡単に手放せるはずもないのに。

 
2回、3回目は自分が抑えられなくて抱いてしまった。
回を増すごとに、快斗は妖艶さを増していった。
罠に嵌めるつもりが、快斗の不思議な魅力に、逆にこちらが虜にされてしまったかもしれない。
服部は隣で眠る快斗に肩まで布団を掛けてやった。
これはもう朝まで起きないだろう。
 
「工藤もこんくらい積極的やったらな〜」
 
自分の恋人の顔を思い浮かべながら、静かに溜息をつく服部だった。
 


 
 
それから服部は、新一が来ない日には必ず快斗を呼び出すようになった。
最初、新一に悪いと言っていたが、抱いてやるとそんな事はすぐに言わなくなった。
快斗はこれが最後になってもいいように、抱かれる時はいつも真剣だった。
だから一日に何回迫っても、文句一つ言わない。
それどころか、それでも足りないくらいに求めてくる。
可愛いくて可愛いくてしょうがない。
 
 
そんな関係が新一に内緒でしばらく続けられた―――――